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通訳者のメモの取り方について(1) [通訳よもやま話]

こちらの投稿については、2009年に株式会社 アイ・エス・エスのウェブサイトのコラムとして寄稿されたものに、筆者が若干の加筆を加えて、当ブログサイトに「引っ越し」てきたものです。(アイ・エス・エスのウェブサイトでの掲載はすでに終了しております。)ご了承くださいませ。

本当に訓練をしなければ、通訳はできないのか?&ノートテイキング(1)

皆様、お元気ですか?

ちょっと前ですが、通訳者として気になるニュースがありました。

グルジア政府が、日本政府に対して、自分たちの国の名前を、「グルジア」ではなく「ジョージア」にしてほしいと要請したとのこと。そう、日本ではグルジアと知られている彼の国、実は英語ではGeorgia, Ray Charlesがわが心の・・・と歌ったアメリカ南部の州、そして日本では缶コーヒーでおなじみ、ジョージアと同じ名前だったんです。

私も最初、確かJapan Timesだったと思うのですが、Georgiaという国名を見たときに、どの国のことかさっぱりわかりませんでした(苦笑) 仕事中のことでなくて本当によかったです(笑)

「グルジア」というのはもともとはロシア語読みなんだそうで、紛争を経て、反露感情が高まる中、自分の国名をロシア語で表記されることを嫌ったということだそうです。

ジョージア、と言われてアジアとヨーロッパと中近東の境目に位置するこの国を思い浮かべるのもなかなかに難しいような気もしますが、グルジアと言われたのを英訳するのにGurudiaなどといったあり得ない国名を口走って恥をかく、ということがなくなることを考えれば、通訳者としてはありがたい、ということになるのかな?

実は、英語でも日本語でもない固有名詞って英語通訳者にとっては鬼門だったりします。

Florence, Bavaria, St. Petersburg, Forbidden City, Guangzhou, Liu Bei / Guan Yu / Zhang Fei

全て「日本語」で言えますか・・・?(笑) 全て皆さんが良くご存知の固有名詞だと思いますよ。
答えはヒミツです。ググればすぐに答えは見つかりますよ。

ちなみに、英語の発言の中の日本の地名ってのも結構な鬼門だったりします。以前、通訳学校の授業で、アメリカ人がNagoyaといったのをそこにいらした10名以上の生徒さんが一人も聞き取れなかったってこともありました。(コンテキストから日本の地名が出てくる、と予想できるような文ではなかったこともありますが)

さてさて、しょっぱなから大脱線気味に始まりましたが、今回はまずはやや刺激的な命題:

『バインリンガルなだけでは、きちんと通訳技術を学んでいなければ、通訳は出来ない』というのは本当なのか?

こちらについて考えて見ましょう。
いきなり結論から申しますと、必ずしもそうとは限らない、ということになります。私の過去の経験から、実は、ごく限られた状況においては全く通訳の訓練を受けていないバイリンガルさんが、通訳者として何とか機能してしまうことがあるのではないかと考えています。そのための条件とは:

1.二つの言語において極めて高い運用力を持っており、二ヶ国語をほぼ完璧に操ることが出来る。
2.ある程度の小規模の、数名程度の打ち合わせにおける通訳である。
3.通訳する話題が、たとえば自分の社内、同じ部門内の自分の担当業務に密接に関連するような話題で内容を熟知している

この条件が満たされている場合、通訳訓練を全く受けていない方でも通訳として何とか機能できてしまうことがあります。

1.については説明の必要はありませんね。

2.については、少人数であれば通訳者がその場を仕切りやすい、つまりリテンションで落とした内容を発言者に聞きなおす、発言が長くならないうちに、適当なところで訳を割り込ませる、あるいはなんちゃってウィスパリングで、自分の訳出を半分、発言にかぶせてしまう、ということがし易いですし、また話者も通訳の存在をきちんと意識しやすいので、発言のスピードや区切りを、通訳者のやり易いように気遣い、調整してくれるケースが多いからです。つまり通訳技術が不足しているのをごまかし易い環境なわけです。

大きな会議になればなるほど、通訳者が逐次なら逐次、同通なら同通のフォーマットをきちんと守って訳をしなければ、会議の進行を大きく妨げてしまう結果となります。

そして多分一番大切な条件としては、
3. つまり、自分がすでによく知っている話であるだけに、話を理解するにあたって、何の苦労もない。この連載2回分をフルフルに使ってくどいほどに力説した(笑)通訳における重要なファクター「理解」をさほど労せずして確立できるという点において、通訳作業に係る負担を大幅に軽減することが出来る・・・。

こんなケースも、また、やはり通訳において「理解すること」がいかに大事なのかを端的にしめしているんではないかと思います。

ただし、これだけ恵まれた条件であっても、通訳技術を学んでいない方の訳出は、精度の欠けるものになりがちではあります。特にディテールにまで及ぶ精度の追求が甘い、あるいは自分の私見を訳に入れてしまう誘惑に抵抗できない、という傾向は強いように思えます。

極端なケースだと、そりゃあなた、今のは隣に入るこのヒトの発言じゃなくて、あなたのご意見でしょ、ってくらい訳が原型をとどめていないことも(笑)このあたりは技能的な問題というより性格的な問題も大きいのではないかとは思います。

ちなみにこの3つの条件が整わないケースで所謂、即席通訳さんが通訳を務めざるを得なかった場面にも何度も遭遇したことがありますが、まあ、やはり可愛そうなくらいに仕事が出来てませんでした。

こういったことを考えていくと、きちんと通訳技術を身につけていなくても、通訳とは別の仕事の傍ら、必要にかられて、ちょっとした通訳を行うことができるレベルには到達できるということはいえるのかもしれません。ただし、幅広い分野において、いかなるシチュエーションにおいても、クォリティの高い、売り物に出来る通訳が出来るようになるためには、やはり、なんらかの形での訓練は必須なのではないかと思います。

さあ、理解の話はさすがにこれくらいにして、今回の目玉(?)コンテンツ、逐次通訳におけるリテンションにおいては欠かすことができないであろう、メモの取り方・ノートテイキングについて:

通訳者のメモの取り方ですが、実はこれといって確立された方法論があるわけではありません。(少なくとも私の知る限り、日英の通訳の世界においては)現場で活躍されている通訳者は皆さん、それぞれが自身の訓練・実践の中で積み上げてきた独自の方法論でメモを取っているのが現状ではないかと思います。

ただし、そんな中、多くの通訳者が共通して守っている基本が幾つかあるのも確かです。そういったノートテイキングの基本について、ワタクシ独自のメソドロジーなども織り交ぜつつ、今回、そして次回と見ていきたいと思います。(すみません、前半で余談に紙面と時間を割きすぎたため・・・もとい、ノートテイキングについても、当初の筆者予想以上に内容が濃くなりそうですので、今回次回の二回連載としとうございます。前回予告した数字の話は、また次回以降に。)

まずは論より証拠? 百聞は一見にしかず? ワタクシが今回のエッセイの冒頭数パラグラフを逐次で通訳しなきゃならない羽目に陥ったとしたら、こんなメモをとるのではないかと思います。


ISSメモ003Small.jpg


さてこのメモを元に、ノートテイキングの基本を見ていきましょう。

メモは縦に取る!

これは現役通訳者の多分95%以上が守っているであろう、ノートテイキングにおける基本中の基本の一つとなります。縦に取るといっても何も400字詰めの原稿用紙に書くようないわゆる縦書きをしろってわけではありません。
ほぼ85%の通訳者はメモ用紙を見ると立てに1本、ないし数本線を引っ張って、まずはメモ用紙を幾つかの列に区切ります。その上で、上図のように、単語を縦に重ねてメモをとっていきます。

なぜ横ではなく縦かといいますと、単語を横方向に並べると、当然一行あたりにとれるメモの情報量は限られてしまいます。ってすると、同じ量のメモをとるにしても、数行に分けてメモをとることになりますよね。そうすると、訳出する際にメモを目で追いかけるときに、改行ごとに視線を大きく切りかえなくてはなりません。細かいことのように思えますが、訳出の最中、脳みそがすでにフル回転している状態では、この程度の小さな負荷も、相当な負担となってしまいます。また急いでメモをとっている中、情報がごちゃごちゃになってしまい、どこからどこまでが一行なのかすらわからなくなってしまうこともあり得ます。

縦書きであれば、より多くの情報を、一列で、視線を折り返すことなく確認することが出来ますし、縦に線を引っ張っておけば列と列がごっちゃになってしまう混乱も避けられます。

少し大げさかもしれませんが、訳出という脳みそに極限の負荷がかかる作業中に、少しでも脳みそへの余計な負担や小さな混乱を避けるために、メモは縦に取るのが鉄則となります。

どんな情報をメモるの?

当然のことながら、人様が普通のスピード話す内容のメモを取るわけですので、全ての単語・情報をメモることは不可能です。メモにとるのは「キーワード」のみとなります。では発言の中のどういった情報、単語をキーワードとして捉えるか、ここはまさに、通訳者がそれぞれ積み上げてきた独自の方法論で、千差万別のやり方でこなしている部分になるのではないかと思います。名詞、主体に取る人、動詞主体に取る人、いろいろなアプローチがあるのではないかと思います。というわけで、こういった品詞・情報・単語主体にとりなさい、ということは一概には申し上げられません。

こうしたキーワードの捉え方については、また後ほど、次回も少し触れたいと思います。

但し、この情報だけは、必ず取りなさい!という情報が幾つかあります。

1. 数字 2. 知らない単語 (音だけはきっちりとメモる) 3. アクロニム(アルファベット等の無味乾燥な組み合わせによる略称) 4. 固有名詞(特に知らない固有名詞) 5. コンテキストの係らない、無味乾燥かつ情報の並列な羅列

これらの情報に共通して言えるのは、前回ご紹介した「意味記憶」で記憶しなければならない情報であること、覚えるに当たって、「理解」や「コンテキスト」といった圧縮ツールを使えず、メモに頼らなければ、とにかく丸暗記するしかない、いった情報になります。丸暗記は脳みそにいらない負担をかけますし、そもそも訳出を行っている最中にほぼ確実に暗記した内容を忘れてしまいますので、必ずメモるようにしましょう。

1.数字については、ポイントが二つあります。一つは、必ず単位まで取ること!円なのかドルなのか、台数なのか、回数なのか、人数なのか、年数なのか、これくらいメモっておかなくても覚えておけると思うかもしれませんが、訳を必死になって搾り出している作業中においては、いとも簡単に今の金額がドルだったのか円だったのか忘れたりします。また例えば、毎秒何メートル、年間○×円、といった○×毎、○×当り、という情報まできちんとメモをとるようにしましょう。

二つ目は、どんなに小さな・簡単な例えば一桁の数字でもメモること!5人、3回、4周年などといった小さな数字、これくらいメモっておかなくても覚えておけると思うかもしれませんが・・・以下同文

2.知らない単語について、これも、発言者に質問をするのであれ、分からない英単語を強引にカタカタで日本語化してしまうのであれ、どんな発音の単語だったか、音だけはメモっておかないと、知らない単語だけに、すぐに忘れます。

5.例えば「この条約の加盟国は、アメリカ、日本、中国、韓国、ロシア、ベトナム、タイの8ヶ国です」といった文章の場合、国名については全て何らかの形でメモを残しておかないと、頭の中だけでリテンションをキープするのは難しい(知らない単語が出てきたらとにかく音だけでもメモにとっておく)

メモはどちらの言語でとるの?

これも正解はありません。日本語だけ・英語だけでとるのか、ターゲット言語でとるのか、ソース言語でとるのか、漢字を使うべきなのか、カナだけにするのか、決まりはありません。

私個人のやり方としては、発言を聞いた瞬間にいい訳が浮かんだようであればターゲット言語で、ちょっとこの言葉の訳し方は迷うな、といった場合は当然、ソース言語のまま、メモをとります。あとは、瞬間的かつ本能的に、画数が少なくて済みそうなのはどちらか判断しながら取っていますかね。例えば、鬱病、と言われたら、さすがに漢字でメモをとることはしないのではないかと思います(笑)

さてさて、メモについては、まだ何点か、基本的なお約束事項が残っておりますので、次回もメモ取りのお話が続きます。

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